介護小説 衣裏の宝珠たち 記事一覧

いよいよ本日から『介護小説』と銘打ちまして!
不定期連載小説が始まるんですよ~(^‐^)
介護の日常を読みやすく楽し~く!しかし・・
とても深~いお話しなんです。乞うご期待!

*この物語はフィクションであり、物語に登場する人物・団体等は
 全て架空のものであります。

となりの芝が青く見える・・・
  近くを捨てて遠くに求める・・

作:なおとっち
   
第1話 シゲさんが登場するということ

   

   キーコ、キーコ、キーコ
   キーコ、キーコ、キーコ
   しんどい。ほんと、この時間帯はしんどい。
   キーコ、キーコ、キーコ
   こうなると、きっと…、くるね。
   タッタ、タッタ
   ほら、きっと、来るよ!ほら、ほら。
   「シゲさーん」
   ほらぁー、やっぱり来たぁー!
   「だめよー、シゲさん、もっと、こがないと」
   いや、こいでます。一生懸命こいでます。
   「中村さーん、次の方がご到着するので、早くホールにお連れしてくださいねー」
   「はーい」
   キーコ、キーコ、キーコ
   「シゲさーん、他の方たちが到着するので、もう少し早くいけませんか」
    いやいや、ムリです。
   「中村さーん、ご到着です。お迎えお願いしまーす」
   「はーい。すぐいきまーす」
   うーん、思うんですけど、やっぱアタシの車はあってないよ。この車おっきすぎる
   んだよねー。平さん、分かってくれないんだよなー。
   シャッシャッシャッ
   ん!あの音!
   「シゲさんや、お先に行くでー」
   室井ジイや。くー、そっか、今日は火曜日だったか!
   「室井さーん、他の方に気をつけて行ってくださいねー」
   「おう!分かっとるわい」
   シャッシャッシャッ
   シャッシャッシャッ
   シャッシャッ、ガコッ!
   おわ!グラッ
   「危ないよー、室井さん。スピード違反で捕まえますよ。ウフフフ」
   いやいや、笑うところじゃないよ。今アタシ、傾きました!
   「さー、皆様、ようこそ、デイサービスなごみの森へ!今日は火曜日です。
    今日も一日、よろしくお願いしまーす!」
   パチパチパチ
   いつも思うんですけど、この拍手の意味はなんですか。
   キーコ、キーコ…
   ふう!ちょっと一息。
   「あれ、中村さーん、留守さんが、まだこちらにいらっしゃってないよ」
   「あ、ほんどだ、あ!シゲさーん、早く、早く」
   ふうー。今度変えてもらお。でも、分かってくれないんだよねー、平さんは。
   決まって、「お変わりないですねー」って、嫁に言うんだから。アタシに聞け
   ってんだ。て言うか、それしか言え…おわ!
   「さー、こいで行きますよー」
   またあんたか!
   「さ、さ」
   いや、一息つかせてね。行きますから、ちょっと休憩です。
   「あ!まーた、シゲさーん、甘えてるなー。押してもらおうと思って、もう」
   いやいや、休憩です。
   「しょうがないわねー、もう。いつもこれなんだからー」
   いやいや違います!違いますよ。
   シャッシャッシャッ
   
   

   早いねーこりゃまた。
   「中村さーん、ダメよー。自立支援、自立支援よ」
   「えぇ、分かってますけど、シゲさんが手伝ってくれって言うもんだから」
   一言も言ってないぞ!
   「そっかー、ダメですよー、留守さーん、甘えちゃ」
   だから言ってないって!
   キーコ、キーコ、キーコ
   「中村さーん、留守さんの車椅子って、体にあってないんじゃないかしら」
   お!よく気がついた!
   「そーですか、そっかなー」
   そうです。
   「うーん、この間、風邪でお休みした時に、お嫁さんと車椅子の話しを
    したんだけどね」
   あれ、単に嫁が忘れてただけです。曜日間違えたから。
 
  「ケアマネさんて、支援センターの平さんでしょ。あの方は何も言って
    いませんでしたけど」
   あの人は「お変わりありませんねー」しか言わないの!
   「体があってないような気がするのよねー」
   気がではなく、あってないんです!
   「主任、気のせいじゃないですか」
   違います。
   「そっかなー」
   いやいや、負けてはダメ!
   「そうですよ」
   負けちゃダメ!
   「そっかー」
   おお、負けたー!あっさり撃沈ですか、主任でしょ、あなた。
   「単に気持ちの問題だと思います」
   だから気持ちではないってば。
   「そうだね。中村さんのほうが、留守さんのことよく分かってるものね」
   いや、全然分かってないよ、この人!
   「さー、シゲさーん、もう少しだから、頑張って!」
   結局ダメなんだー。
   「さ、シゲさん、頑張って行きましょう」
    行きます。こうなりゃ行きますよ。
   キーコ、キーコ、キーコ
   「シゲさんやー、はよう来なはれ!」
   うるさい、室井ジイめ。
   キーコ、キーコ、キーコ
   「シゲさーん!頑張って!」
   キーコ、キーコ、キーコ
   ふう、また長い一日が始まったわ。
   キーコ、キーコ、キーコ
   キーコ、キーコ、キーコ