介護小説 衣裏の宝珠たち(いりのほうじゅたち) 5

2010年4月1日 | 介護小説 衣裏の宝珠たち

*この物語はフィクションであり、物語に登場する人物・団体等は
 全て架空のものであります。

となりの芝が青く見える・・・
  近くを捨てて遠くに求める・・

作:なおとっち

第5話 車椅子ということ

   ピンポーン
  「あ、奥さん、来ましたよ」
  「はーい」
   ガチャ
  「こんにちは!《すこやか福祉用具》の森 新太郎です!」
  「いらっしゃい。お待ちしてましたわ。さ、どうぞ」
  「お邪魔いたします!失礼いたします!」
   来たね、この人いい人なんだけど調子いいんだよねー。
  「いやーいつも思いますが、立派なお宅ですよねー、留守さん宅は。閑静な
  住宅街、立派な日本庭園、お庭だけでも2棟建ちますよー」
 
 
  
  「ところで森さん、先日言った車椅子は持ってきてくれました?」
  「あ、平さん、どうもお世話様です。はい!今日はいくつかのタイプを持って
   きました」
  「この間、デイサービスの高村さんと車椅子の話しが出ましてね、で、平さんに
  相談したんです。今使っている車椅子はお母さんにあってないんじゃないかしら、て」
   平さんもようやく分かってくれたのね。
  「そうですか。《なごみの森》の高村主任さんですね、存じ上げてます。
   同じ、もりもり、つながりでご贔屓戴いております、はい」
  「それで、森さん、持ってきたのは、この三つですか」
  「はい。まずは、これですが…」
   何やらごっついタイプですな。
  「これは、『スーパーターボ2010』といいまして、重厚感溢れる作りになっており、
   また車椅子の欠点は坂道です。このスーパーターボは坂道を何なりとカバーします」
  「お母さん、乗ってみたら」
   これに、ですか。はいはい。
  「どう、お母さん?」
   えらい重たいですよ、これ。
  「あ、留守さん、右肘にボタンがついてますでしょ」
   ん?あぁ、赤と青ですね。
  「赤、押してみてください」
   はい。ポチッ
   ギュルン!ギュルン!
   お!
  「ふふふふ」
   え?
  「ここからが、見せ場です!」
   ブオオ!ブオオ!ブオオオオオオーン!!
   あわわわわわ!
 
 
  
  「きゃー、お母さん!」
  「留守さん!あ、曲がって、留守さん!危ない、ぶつかりますよ!」
   あわわわわわ!
  「きゃー、お母さんが暴走してる!」
  「広いリビングの留守さんの家だからこそ、できるんですよねー。ふふふふ」
   あわわわわわ!
  「森さん!止めるのは、青ですか!」
  「いや…青は…」
  「お母さん!青、押して!青です!」
  「いや、私はまだ何も…」
   あ、青だね!ポチッ。
   キュキュキュ!キキー!
   お!止まった!
  「はぁ良かった。お母さん、止まったわね、ホッ」
  「いやいや、これからですよ、留守さん」
   え?
  「え?」
   ブルブルブルブル、ブルブルブルブル!
   いやーな予感…
  「ふふふふ。スーパーターボの威力はここからです」
   ゴオッーーー!!!
 
 

  「平さん?あ、あれ、火ですか…」
  「…のよう…ですね…。く…車椅子が火を…噴いている!」
  「ふふふふ。社運を賭けたかいがあります!見ててくださいね!」
   いやいやいや、止めて!
  「も、森さん、止めてください、も、もういいです!」
  「そうですか、平さん。残念ですねー。じゃー青を長押ししてください」
   青を長押しですね。ポチッー。
  「あ、火が止まった…。」
  「ほっ…。一時はどうなるかと思いました。はぁ…」
  「あぁ良かったわ。お母さんがまるでチョロQなんだもの!」
   生きた心地がしませんでした、はい。
  「では、これはどうでしょうか。『ドリフト2010』です!」
   ま…また、何やら…あやしげな車椅子が…
  「も、森さん、それもちょっと…。ちなみに最後のそれは…」
  「はい!『ジェットエンジン2010』です!」
   ………。
  「………」
  「あ、あ、あはははは。もう、いやだわ、森さんは。いつもいつもご冗談が
   お上手で。で、あれでしょ。この後に、本当の車椅子が出てくるでんでしょ」
  「これだけですよ」
  「も、森さん…、持ってきたのは、この三つだけってこと…」
  「はい!え?だって、平さんが先日お電話で、スピードがあってないって仰って」
  「えぇ!違いますよ、体があってないって言ったんです」
  「えぇ?そうだったんですか!」
  「そうですよ」
   車椅子にスピードはいらないでしょ。しかも、見てください、ほら、私の体と
   車椅子があってないでしょ?ほら、こぎ辛いんですから。
  「ありゃ!」
   分かった?
  「確かに!そうだったんですか、じゃー、どうしましょう、このスーパーターボは」
   いらないです。
  「社運を賭けたんですけどねー。奥様、如何がですか、屋内用と屋外用と分けては」
   外でもダメでしょー。
  「そうね…」
   いやいや。
  「うーん…、どう思います、平さん?」
   えぇ?なんで悩んでいるの?
  「そうですねー、うーん…、屋外用ねー、うーん…」
   なんなの、この人たちは。

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