介護小説 衣裏の宝珠たち(いりのほうじゅたち) 7

2010年4月11日(日) | 介護小説 衣裏の宝珠たち

*この物語はフィクションであり、物語に登場する人物・団体等は
 全て架空のものであります。

となりの芝が青く見える・・・
  近くを捨てて遠くに求める・・

作:なおとっち

第7話 流動食(ペースト状)ということ

  「お!もうこんな時間か、飯だ、めしの時間だ」
  「はーい、皆さん、お食事 の時間にしましょう。中村さん、配膳お願いね」
  「はーい」
  「今日は何じゃ」
  「本日のメニューは、とりのから揚げとほうれん草のお浸し、きんぴらごぼう、
   そしてフルーツは、オレンジです」
  「おお、まあまあだな」
  「はい、室井さん、どうぞ」
  「うむ、ではいただくとするか」
  「はい、留守さん、どうぞ…あれ?あ、そうか、留守さんはペーストね」
  「あ、そうなのよ、中村さん。留守さんは義歯調整中だから、今日は別メニューなの」
  「そうでしたね、主任。ごめんね、留守さん、今日はこちらになります」
   ふーん。
  「それでは皆さん、いただきまーす!」
  「お、なかなかいけるぞ、このからあげは」
  「良かったわ、室井さんのお口にあって」
   うーん…
  「あ、あれ、留守さん、どうかしましたか」
   うーん…、この緑色はなんですかね。

  「あ、あぁ、それ?それはね、きっと、ほうれん草ね」
   ほうれん草ですか。ペロッ
  「どう?ほうれん草でしょ?」
   たしかに。でも、醤油も何にもついていないんじゃないの。
  「ん?」
   いや、たしかにほうれん草だけど、何にも味がしないよ。
  「あ!醤油入れるの忘れちゃった!あはははは」
   でしょ?
  
  「ご、ごめんね、留守さん。はい、どうぞ」
   ペロッ。うん、これなら味がしますね。
  「あぁ、良かったわ。どうぞ召し上がれ」
   ところで、この茶色は何ですか?

  「え?留守さん、なに?」
   ん?だから、この茶色は何かと…
  「あ、これ?あぁ、これはねー」
   何ですか。
  「これは…」
   えぇ。
  「何かしら?」
   いやいや、こっちが訊いてるんです!
  「これは…。うーん、ちょっと匂い嗅いでみて?」
   クンクン。うーん、何でしょう?
  「分からない?」
   えぇ。
  「じゃ私が。」
   クンクン。
   分かりますか?
  「何これ?」
   でしょ?
  「うーん、じゃー取りあえず、食べてみて、留守さん。そしたら分るから」
   何ですかそれは。
  「ね?」
   分かりました、食べてみます。
   ペロッ。
  「どう?」
   から揚げです。から揚げですね、これ。
  「ん?なに?」
   食べてみますか?
  「じゃー、ちょっとだけ」
   ペロッ。
  「から揚げだ!」
   そうです。
  「あははは、そうか。私はてっきり、がんもどき、かと思っちゃった!」
   ハズレです。
  「な、なーんだ、ペーストだから別メニューて主任さんが言うからさー、
 変わってないんじゃない、ねー留守さん。じゃ、これは、きんぴらごぼうね」
   この、うす茶色ですか?

  「そうそう。赤っぽいのもあるし、それはニンジンよね」
   でしょうね。
  「食べてみて」
   ペロッ。
  「どう?」
   うーん、言われてみれば、て感じですね。
  「おいしくない?」
   言われれば、おいしいですが…。分からないと、不気味です。
  「じゃー、これは、分かるわね。これはフルーツですもの」

   オレンジですね。これは分かります。
  「お!留守さん!食欲ないんかい」
   うるさいのが来たな。
  「室井さん、留守さんはね、今、入れ歯調整中なの。だから、固形物はダメなのよ」
  「ほー。―――で、この緑色は何じゃ?」
  「何だと思います?室井さん」
  「うーん、この色具合、そして、この匂い!」
  「えぇ」
  「ずばり、うぐいす豆!」
  「ブブー、残念でした。正解は、ほうれん草です」
  「おお、そっかー」
  「じゃーじゃー、これは何だと思います?」
  「ん?この、茶色か?」
  「えぇ」
  「うーん、まてまて。この色、そしてこの匂い…」
  「何です?」
  「ずばり、がんもどき!」
  「きゃー!私もそう思っちゃったのよねー、ね、そうでしょ、勘違いするでしょ?」
  「おお、そっかー。室井源次郎、一生の不覚じゃ!」
  「じゃーじゃー、室井さん、このうす茶色は、何だと思いますか?」
  「よっーし!今度こそ、当てるぞ!」
  「なになに?」
   こ、こいつら、人の食事で遊んでおる…