介護小説 衣裏の宝珠たち(いりのほうじゅたち) 14

2010年6月22日(火) | 介護小説 衣裏の宝珠たち

*この物語はフィクションであり、物語に登場する人物・団体等は
 全て架空のものであります。

となりの芝が青く見える・・・
  近くを捨てて遠くに求める・・

作:なおとっち

第14話 サービス担当者会議ということ


  「―――で、このようなプランでよろしいですか」
  「ええ、いいですよ。いいわよね、お母さん」
   いいです。
  「それでは、来月より、このプランでいきたいと思います。まー前回と内容は
   変わりませんが」
  「ところで、平さん、母の認定が今回は少なくなりましたけど、どうしてかしら」
  「ええ、前回は病院でしたからね、それから半年経って、留守さんのご状態が良く
   なりましたから。介護度の物差しは、≪介護の手間≫をみるので。そういう意味
   では、むしろいいことだと思います。プランが適正だったともいえます」
  「ふうん、そうなんですね。なんか、ちょっと損した気分になったものですから」
  「あはは、中には、そのような感じを抱く方もいらっしゃいますよ」
  「介護用ベッドとか、車椅子は今まで通り使えるんですね」
  「ええ。今回は《要介護2》ですから、大丈夫です」
  「引き続き、《すこやか福祉用具》の森 新太郎をよろしくです!」
  「ふふふ、よろしくね、森さん」
   またこの人と付き合うのか。
  「そういえば森さん、例のあのロボットは、どうしたんですか」
  「はい。《ゲッターロボすこやかスペシャル》ですね。あれは現在うちの社の倉庫に
  眠っております」
  「ははは、そうなんだ」

  「それはそれはデカいですからねー。涅槃像のような形で眠っております。いかが
   ですか、高村主任さん、一つ《やすらぎの森》さんで使ってみては」
  「ええ?結構ですよ、うちでは置き場所がないですから。あ、そうそう、
   この間、留守さんのお宅がテレビに出てましたでしょ、ねー奥様」
  「ああ、そういうこともあったわ。なんか《珍百景》とかいう番組で、お宅にある
   あのロボットを撮影させてください、て番組の人が言ってきて」
  「奥様もしっかり映ってましたね」

  「まーそういう機会ってないから、ふふふ、しっかり映っちゃったわ」
  「留守さんは出ていませんでしたけど」
  「母は恥ずかしがって出なかったのよ、ね、お母さん」
   バカでかいロボットの前では、映りたくありません。
  「クミちゃんは出たのよねー」
  「はい奥様、ちゃっかり映りました」
  「じゃあ奥さん、森さんのロボットもまんざら迷惑ではなかったようですね」
  「ふふふ、そうね平さん。でも主人は多少嫌がってました。何でも出勤の時
   ロボットの股の間をくぐるのがイヤだ、て言って」

  「はははは、そうだったんですか。ところで、奥さん、私まだ、ご主人にお会い
   したことないんですよね」
  「あら、そうだったかしら」
  「ええ。皆さんはありますか、高村さんや森さんはお会いしたことありますか」
  「そういえば私もないですね。まー私の場合送迎には乗らないからなんだけど、
   でもうちの職員に聞いても、多分お会いしたことはないと思いますわ」
  「僕もありませんねー。平日は、まーお仕事だとしても、休日もいらっしゃら
   ないことがありますね」
  「そうねー、普通のサラリーマンより、ちょっと忙しいのかな」
  「どんなお仕事なんです?」
  「うーん…何て言ったらよろしいかしらね」
  「あ!」
  「ん?どうしたの、クミちゃん」
  「皆さん、これで分かると思いますよ。今、テレビに出ていらっしゃるから」
  「ええ、そうなんですか!芸能人なんですか、へー」
  「あ、クミちゃん…」
  「ほら、確か今NHKで…」
   嫌な予感…
   プチ
  「ク、クミちゃん…」
  「え?あれ…」
   ………
  「ん?これって、国会中継ですか。国会中継ですよね…」
  「そうですね、ああ、新政権の首相が出てますよ、ほら…。で、ご主人は…」
  「旦那様は、ほら、今、答弁している人がそう………」
   プチ
  「あ」
  「い、いやだわ、クミちゃんたら。番組間違えて、もう」
  「え?奥様…」
  「じゃあ、やっぱり芸能人なんですか」

  「え?そ、そうね。まーでもいいじゃないですか、うちの主人の話しは、ね」
  「そ、そうですね、今日は留守さんのサービス担当者会議ですから、あはは」
  「そういえば、平さん、飯田先生は結局いらっしゃらなかったですね」
  「ええ、さっき電話したんですが、一応むかってる、とはクリニックの人が言って
   ましたけど」
  「飯田先生もいつまでもお若いですよね。お母さんと確か同級生だったと思うわ」
   私より、1歳上ですね。
  「そうなんですか、へー」
   ピンポーン
  「あ、もしかしたら先生かな?クミちゃん、出てくれる」
  「はい。―――はーい、あ、先生」
  「ごほほほん、ごほほほん、い、いやー、家を間違えてしまったよ」
  「先生、わざわざすみません、《支援センター》の平です」
  「へ?」
  「あ、ええと、平です…」
  「ほう、そうかいそうかい。で?」
  「は、はい…今日は留守さんのサービス担当者会議でして」
  「留守さん…おおう、留守さん、具合のほうはどうじゃ。ご、ごほほほん」
   変わりないですよ、先生こそ、どうしたんですか、具合悪そうですけど。
  「ごほほほん、ううん、どうも、喉の具合が悪くてなー、もう齢じゃな」
  「先生、先週お電話でお話ししましたけど、何か現在のサービスで、ご意見等は
   ありますでしょうか」
  「ん?ご、ごほほほん」
  「いえ、ですから…」
  「留守さん、ほら、カステラを買ってきたぞ、のー、奥さん、お茶を出しておくれ」
  「え?あ、は、はい」

  「ほれ、留守さん、おいしそうじゃろ。ご、ごほほほん」
   おいしそうなカステラですね。
  「せ、先生…」
  「君も食べるか?ん?月に1回の茶飲み会は楽しいのー。ごほほほん」
  「ちゃ…茶飲みねー…。はい、カステラ戴きます」
  「ほら、皆さんも遠慮せんと、どうぞ…ごほほほん」