介護小説 衣裏の宝珠たち(いりのほうじゅたち) 2

2010年3月9日(火) | 介護小説 衣裏の宝珠たち

*この物語はフィクションであり、物語に登場する人物・団体等は
 全て架空のものであります。

となりの芝が青く見える・・・
  近くを捨てて遠くに求める・・

作:なおとっち

第2話 入浴介助ということ

   ゴシゴシゴシ
   ゴシゴシゴシ
  「シゲさーん、首も洗ってね」
   ゴシゴシゴシ
  「シゲさーん、わきの下も洗ってね」
   ゴシゴシゴシ
   あれ、泡立たなくなったぞ。
  「あ、泡立たないね。じゃぁ、シゲさん、石鹸渡すからね。はいどうぞ」
   シュポン!

   おわ!
  「ありゃ、ごめんねー」
   今、石鹸飛びました。
  「ぶつからなかった、大丈夫?シゲさん」
   目の前を横切りましたけど。
  「あぁ、びっくりした!」
   私もです。
  「はい、どうぞ」
   ゴシゴシゴシ
   今、落ちたところ、石鹸の跡が残って危ない気がしますが。
  「ん?どうしたの、シゲさん。あ、これ、大丈夫よ。平気平気」
   ゴシゴシゴシ
  「わきの下、洗いづらいですか。じゃ、そこだけ手伝いましょ」
   いやーな予感…
   コシコシコシ
   あひゃひゃひゃひゃ。
   コシコシコシ
   おひょひょひょひょ。

   「中村さーん、次、米田さーん、入りまーす。」
   「はーい」
   コシコシコシ
   はひょひょひょひょ。
   「あれ?今日は機嫌いいわねー、留守さんは」
   違います、くすぐったいんです。
   「そうなんですよー。はい、いらっしゃい。米田さーん」
   ふうーふうー。丁寧はいいんだけど、力が中途半端なんだよねー。
   米田さん、もしやあんたも…
   コシコシコシ
   「あひゃひゃひゃひゃ」
   やっぱり。
   「中村さん、今日はみなさん、楽しそうだわね」
   「えぇ、主任。やっぱりお年寄りはお風呂が好きなんですねー」
   ポチャン。
   ふぅー、ごくらく、ごくらく。取りあえず助かった。
   「米田さーん、はーい、ベンベンベン」
   「ぷ。何それ、中村さん」
   「あ、米田さんは、昔、三味線の先生だったんですよ」
   「へー、そうなんだ」
   ふーん。
   「わひゃひゃひゃひゃ」
   「まるで、耳なし芳一ですよねー」
   「そうねー」
   あれ、琵琶ですよ。
   「誰でしたっけ、えぇと、小泉、小泉…」
   「えぇとね、あぁ、ここまで出てるんだけどね」
   小泉八雲ですか。
   「小泉…純一郎は今の総理だしー」
   いや、もう辞めてるでしょ。
   「小泉何とかなのよね。確か、別名がなかったかしら」
   そうです。
   「主任、詳しいですね」
   「えぇと、何とかハーン、何とかハーンなのよね」
  
  ラフカディオハーンですか。
   「そうなんですか、主任。チンギスハーンとか」
   「あははは、まー、それに似てるわね」
   全然違います。
   「あひゃひゃひゃひゃ」
   「やーだ、米田さんは、ほんと好きなんだよねー。ベンベンベン」
   米田さん、はよう、こっちに来なはれ。
   「留守さん、もう出ましょうか」
   はい、もういいです。
   ザブーン
   ポカポカポカ
   
はぁ、いい気持ちだった。
   「中村さん、留守さんをお願いしーーーきゃ!」
   ツルーン!
   「あ!主任!大丈夫ですか」
   主任さんが滑った!
   「あぁー!危なかったわ!ここ滑るわねー」
   「主任、大丈夫ですか。あぁ良かった。誰ですか、こんなの残して」
   あなたです。あなたのさっきのでしょ、それ。
   「ふぅ、留守さん、ごめんなさいね。びっくりしたでしょ」
   びっくりしました。
   「主任、送迎の時間があるでしょうから、後は私がやりますよ」
   米田さん…
   「そうね。じゃ、頼むわね、中村さん」
   米田さん、大丈夫。きっと大丈夫だから。
   「はーい、まかせてください!」
   ポチャン
   取りあえず…良かった、米田さん。
   「じゃーこちらで拭きますね、シゲさーん」
   フキフキフキ
   あひゃひゃひゃひゃ。
   「嬉しいわ、シゲさん。そんなに喜んでくれると」
   フキフキフキ
   おひょひょひょひょ
   いひゃひゃひゃひゃ