介護小説 衣裏の宝珠たち(いりのほうじゅたち) 3

2010年3月19日 | 介護小説 衣裏の宝珠たち

*この物語はフィクションであり、物語に登場する人物・団体等は
 全て架空のものであります。

となりの芝が青く見える・・・
  近くを捨てて遠くに求める・・

作:なおとっち

第3話 認定調査が来るということ

  「…で、こんな感じで如何でしょうか」
  「そうですね、分かりました」
   14:10
  「奥さん、後は大丈夫ですね」
  「えぇ。…でも、久し振りだから何か緊張しちゃうわ。前回は病院だったし」
  「そうですね。ただ、聞かれたことをそのまま答えればいいと思いますよ」
  「そうね…。あら、まだこんな時間なのね。平さん、もう一回いい?」
   またやるの?
  「いいですよ、やりましょう」
   ほんと?1時からずっとやってますよ、あなたたち。
  「えぇと、じゃまずピンポンから」
   そこから!
  「それでは私が入ってきます。『こんにちは。○○センターから来ました平です』」
  「『ご苦労さまです』あ、この時って、うちのお母さんは何処にいましたっけ」
   さっきは、ベッドで寝てました。その前は、なぜかテーブルで雑誌を渡されて
   ましたが…
  「まだベッドのほうがいいですね」
  「そうなの。でも、お客さんが来て失礼じゃないかしら」
   お客ではないでしょ。
  「いえいえ、調査員はお客ではありませんから」
   同じこと言った。
  「そうなんだ、じゃ、お母さん、ベッドへ行ってて」
   はいはい。
   キーコ、キーコ
  「あ、やっぱり待って、お母さん」
   なんですか。
  「平さん、やっぱりおかしいわよ。だって、お化粧してスカートはいて
   

   スカーフ捲いて寝てる人なんていないもの。待って、お母さん」
   待ちます。
  「そうですね、ではリビングにいてもらいましょうか」
  「それだと、寝返りとか、起き上がりとか分らないでしょ」
  「えぇ、一旦ベッドで寝てもらうことになりますね」
  「うーん、動線が悪いのよねー」
   待ってますよ、どうしますか。
  「さきほどのパターンだと、今起こしましたよーという設定ですが」
  「で、最初のが、あら、お母さん、お客さんだわ、て設定だったし」
   どっちでもいいです。
  「どっちにしますか」
  「どうしようかしら」
   どうしますか。
  「あ、そしたら、いっそ、風邪で寝込んでいます、てします?」
   なんですかそれは。
  「でも奥さん、それだと調査員は完全には調査できないので、再度すること
   になりますよ」
  「え、そうなの。それだと手間よね」
  「そうですね。日を改めてまた、てなりますね」
  「じゃ、だめだ」
   もとからダメです。
  「じゃぁ、やっぱり、あら、お客さんがいらしたわ、でいきましょうか」
  「そうしますか」
   最初の設定ですね。
  「そうしましょ。お母さん、戻って、テーブルについてください」
   はいはい。
   キーコ、キーコ
   14:35
  「あら、雑誌がないわ。あれ、さっきのカタログは?」
  「それは、さっき奥さんがカタログではおかしいから、女性誌のほうが
   いいと仰って、2階に片付けませんでしたか」
   そうです。
  「そうだったかしら」
  「えぇ」
  
「じゃぁ、持ってきますわ」
   タッタ、タッタ、タッタ
   タッタ、タッタ、タッタ
  「平さん」
   あれ、雑誌持ってきてないよ。
  「何です」
  「思ったんですけど、私の服装は派手すぎないかしら」
   えぇ?
  「派手ではない気がしますが」
  「そう?平さんは見慣れてるからそう思うんじゃない?今ね、鏡に映った
   自分を見て、ちょっと気になるのよねー」
  「そうですか。まー、奥さんがそう思うんでしたら」
  「そうよ。この格好では調査員の心証が悪いでしょ。派手好きな嫁と地味な
   介護の母親、て」
   2時間ドラマの見すぎです。
   14:50
  「じゃ、ちょっと着替えてくるわね。あら、お化粧も変えたほうがいいわね」
  「あ、奥さん、もうすぐ来ますよ」
   来ますね。
  「えぇ、ダメよー?」
  「いやーでも…」
   ピンポーン
   ほら。
  「あー!平さん、どうしよう!えぇと…」
  「取りあえず、最初の設定でいきましょう」
  「じゃ、お母さん!ベッドにいなきゃ!」
   おわ。
   シュッシュッシュッ
  「いや、奥さん、それはさっきの設定です。リビングですよ」
  「えー!違うの?あーどうしよう!」
   ピンポーン
  「落ち着いてください、奥さん」
   おわ!そっちは玄関だよ。迎えに行くんですか、私も。
  「奥さん、車椅子離さないと!」
   ピンポーン

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