介護小説 衣裏の宝珠たち(いりのほうじゅたち) 4

2010年3月28日(日) | 介護小説 衣裏の宝珠たち

*この物語はフィクションであり、物語に登場する人物・団体等は
 全て架空のものであります。

となりの芝が青く見える・・・
  近くを捨てて遠くに求める・・

作:なおとっち

第4話 お花見ということ


  
「さぁ、『なごみの森デイサービス』による、お花見大会のはじまりー!」
   パチパチパチパチ!!
  「今日は思いっきり楽しんでくださいねー!」
  「おおっし!楽しむぞー!おぉーい!誰か酒持ってきてくれー!」
  「中村さーん、室井さんがお酒ですって」
  「はーい」
   グビグビグビグビ
  「ぷはっー!おおっし!もう一杯!」
  「はーい」
   グビグビグビグビ
  「ぷはっー!くっー!たまらんわい!おい、シゲさん!」
   何ですか。
  「室井源次郎、この男に一杯つげぇー!」
   はぁ?
  「小倉生まれで玄海育ち!」
   え?あなた、札幌でしょ、出身。
  「くーちもあらーいーがーきもあーらーいーってな!」
   歌かよ!
  「室井源次郎が一献を交わそうとしているんじゃ!シゲさん!つげー!」
   えらい酒癖悪いな、この男は。はいはい、つぎますよ。はい、どうぞ。
   グビグビグビグビ
  「ぷはっー!桜はどこじゃー!酒なくて、何の己が桜じゃー!」
  「あ、シゲさーん、ありがとね。後は私がやるから。シゲさんは何を飲みます?」
   お茶でいいです。
  「はーい。あ、長宗我部(ちょうそかべ)さんは、何にしますか?」
  「私は…」
   チンチンドンドン、チンドンドン
   ん?
  「あ、シゲさん、あれね、ちんどん屋です。主任がやってるんです。余興で」
   へぇー。
  「私は…」
   タラララララー、タリララララーララ
   あれは?
  「え?あぁ、あれは、マジックですよ、江田看護婦さんです」
   ふぅーん。
  「私は…」
   ワッショイ!ワッショイ!ワッショイ!
   神輿だ!何故に、お花見で、神輿なの?
  「盛り上がってきたねー!今日は余興盛りたくさんですから!」
  「えぇーと、私は…」
  「あ、ごめんなさい、長宗我部さん、何にしますか?」
  「こりゃこりゃこりゃ!チョーさん!何を女子に口説いておるんじゃ!」
  「あたたたた、私は何も…」
  「ダメですよー、室井さーん、からんできちゃ!」
   ヘッドロックした!
  「チョーさん!あんた、新入りの癖に節操がないのー!」
  「私はただ…、あたたたたた」
  「誰か、室井さんをあっちへ!さー、室井さん、向こうにおいしい、焼き鳥があり
   ますから、さー!」
  「おっーし!つくねでも喰うか!こくーらーうまーれーでーげんかーいーそだーち」
   だから札幌でしょ、あなた。
  「ごめんなさいね、長宗我部さん。…で、何でしたっけ?」
  「いや…もう…いいです」
  「何かあったら遠慮しないで言ってくださいね。あ、主任さん!フォロー入りまーす!」
   タッタ、タッタ、タッタ
   普段もせわしいけど、こういう時もせわしいのね、あなたたちって。
  「えぇーと、留守さん…」
   え?
  「実は…その…私…」
   ん?
  「この日のために…その…留守さんに…その…歌を…」
  
 チンチンドンドン、チンドンドン
  「留守さーん、長宗我部さーん、盛り上がってますかー!」
   あ!主任さんだ。
  「は、はぁ…」
  「今日は思いっきり楽しんでくださいねー!それー!」
   チンチンドンドン、チンドンドン
  「………」
   え?何です?
  「あ…、そのー、この日のために…留守さんに…歌を詠もう…と…」
   ワッショイ!ワッショイ!ワッショイ!
   え?何か言いました?
  「えぇ…ですから…留守さんのために…歌を…」
   ワッショイ!ワッショイ!ワッショイ!
   え?何にも聞こえないんですけど。
  「いや…あの…」
   タラララララー、タリララララーララ
  「留守さーん、見て見て!」
   江田さん?
  「ほぅーら、ジャジャーン!」
   パタパタパタパタ!
   おわ!鳩が出た!
  「ねー、凄いでしょ。さー、みなさーん!鳩が出ましたよー!」
   クックークックー
  「長宗我部さーん、盛り上がってますかー!」
  「………」
   で、何か言ってませんでした?
  「あ、いえ…ですから…留守さんのために…その…歌を詠んで…」
  「こぉーらー!チョウさんや!呑んでおるかー!」
  「あたたたたた」
   またあんたか!
  「あ!室井さーん!だからヘッドロックしちゃダメですって!」
  「こーらー、チョウ!」
  「あたたたたた」
   パタパタパタ、パタパタパタ
   また、鳩が出た!