中学生の職場体験がありました。
写真の様子は、今度企画している「運動会」の競技説明です。
競技説明を忘れて中学生にムキになっているのは
副ヘルパー長(写真左)・・・・・・
Writer:田中 昇
*この物語はフィクションであり、物語に登場する人物・団体等
は全て架空のものであります。
第19話 長宗我部さんの女性論ということ
「きゃあー主任!また室井さんが、室井さんが!」
「ええ!またー!中村さん、どこ、どこ!」
「こっちです、主任!」
「あ!室井さん!ダメですよ、長宗我部さんをヘッドロックしちゃー!」
「アイタタタタタ」
「こりゃ、チョー、まいったか、こりゃ」
「室井さん、離れて。―――もう、何があったんですか」
「オーイタタタタタ」
「ふん、例によって例じゃよ。うるさいったらありゃしない、ふん」
「え?あ、じゃあ、またあの短歌を詠んでいたんですか」
「そうじゃよ、まーったくうるさいったらありゃしない。なーにが、≪君恋し…≫
だ、お前はそれしか言えんのか、アホたれ」
「………」
「いいじゃないですか、別に誰に迷惑かけている訳ではないんだし」
「俺は迷惑じゃよ、聞きたくもない俳句なんか!」
「……短歌です……」
「な…なにをー、こいつ、口が減らんやつじゃ!」
「アイタタタタタ」
「室井さん!だからダメですって!んもう、室井さんも室井さんですよ、いいじゃ
ないですか、歌を詠むくらい、そんなに怒らなくても」
「ふん、こいつが女たらしじゃからよ」
「え?どうしてです?」
「こいつは、米田のばあさんと付き合っているにもかかわらずだ、まーだ、留守さん
をあきらめきれん。いいか、チョー!二股かけよう、なんて男の風上にもおけん」
「そ、そうなんですか……長宗我部さん…」
「い、いえ、私はただ、自分の気持ちを正直に女性に伝えているだけです」
「………」
「これは罪ですか、高村主任さん。女性に愛を伝えることは罪なんでしょうか」
「い…いえ…そんなことは…」
「齢(よわい)を重ねても、女性を好きになることは罪悪なんでしょうか、あの
トルストイもそんなことを言いましたか?」
「え?ト、トルト……スイ?」
「トルストイです。例え副腎ホルモンが減少したとしても、私という、こころが
それを超越しているんですよ、そして愛が生まれるんです!」
「え…ええ…」
「な?こいつ、おかしいだろ」
「モーパッサンの≪ 女の一生 ≫を読みましたか?」
「モー…パスタ…?」
「モーパッサンです!」
「い、いえ…あ、ははは、私は本が苦手で…はは」
「ダメです!」
「え?」
「ダメですよ、それじゃー!女でこの世に生まれながら、くっー!嘆かわしい!」
「は、はあ…」
「な?段々腹が立つじゃろ、この男には」
「石川さゆりですよ!」
「へ?」
「石川さゆりです!知ってますか!」
「は、はあ…知っていますけど…な、なんか唐突すぎて…」
「なんだこいつ、また訳の分からんことを言い始めたぞ」
「♪隠しきれーないー移り香がー、いつしかあなーたにー、浸みーついたー♪」
「今度は歌いだした!」
「♪誰かに盗らーれるー、くーらいならー♪はい!」
「え?」
「主任さん、この次!」
「え…ええと…」
「♪あなたをころーしてーいいーですーかー♪でしょ!」
「は…はあ…」
「こいつ、結局自分で歌いきりやがった」
「≪ 天城越え ≫です!」
「え、ええ、それは知っていますが…」
「女の情念を歌っています」
「そ、そのようですね…」
「情念はありますか?」
「じょ…情念というのは…どうも私には…」
「私にはあります!」
「お、女の情念が…ですか…」
「あるというか、分かるんですよ、私には」
「は…はあ…」
「主任さん、こんなバカと関わるだけ時間のムダじゃよ、ほれ、もう送迎の時間
じゃろに、準備せんでいいのか」
「あ、そ、そうですね、準備に行かないと。長宗我部さん、楽しいお話しをありがと」
「訓練されておるねー、さすが主任さんになると。あんたのほうがよっぽど偉いぞ」
「高村主任さん!まだです、まだですよ、これからが核心なんですよ!」
「これ、チョー。お前みたいなのに付き合っている暇はないんだって、主任さんは」
「ここからなんですよ、留守さんも米田さんも、私に恋焦がれる理由は!」
「は?お、お前、なんちゅう解釈してるんだ、おめでたい奴だ…」
「あ、あははは、長宗我部さん、有難うございました。また続きは来週聞かせて
下さいね。とてもためになりました」
「高村主任さん、独身でしょ。なぜか分かりますか?」
「え?」
「主任さん、チョーにヘッドロックしていいなら、いつでも合図をくれ」
「一体なぜか?ご自分で問いかけたことありますか?」
「と、とくには…」
「でしょ!だから今もって独り身なのです!」
「は、はあ…」
「いつでもいいぞ、ヘッドロックする準備はできてるぞ」
「その答えは、私が知っています」
「あ、いえ、私はただ単純にまだ独りのほうが楽だからと、それだけなんですけど…」
「違います!」
「へ?」
「私には分かります。その答えは!」
「いつでもいいぞ、やるか主任さん?」
「その答えは、実はですね!」
パチ(高村主任のウインク)
「こりゃーチョー!」
「あ!アイタタタタタタ!アイタタタタタ!」
「さ、送迎の準備に行ってこよっ」