介護小説 衣裏の宝珠たち(いりのほうじゅたち) 11

2010年5月15日(土) | 介護小説 衣裏の宝珠たち

*この物語はフィクションであり、物語に登場する人物・団体等は
 全て架空のものであります。

となりの芝が青く見える・・・
  近くを捨てて遠くに求める・・

作:なおとっち

第11話 米田さんとポチということ。

  「ところでカズコさんや、お昼はまだかいのー」
  「え?い、いやだわ、お母さん、お昼はさっき食べたばかりじゃないですか」
  「ほう、そうだったかい?」
  「そうですよ」
  「ふーん、では、ポチと散歩でも行くとするか」
  「お母さん、気をつけて行ってきてくださいね」
  「うん、じゃあ行ってくるよ、ほれ、ポチ、散歩に行くよ」
   ワンワン(まだお昼食べているから、後にして)
  「ほー、ポチ、そんなに嬉しいか、お婆ちゃんと行こうな」
   ワンワン(だから食べてるから後にして。それと、ママとのほうが…うわ!)
  「そうら、行くぞー」
   キャンキャン(やだやだ)
  「では、行ってくるね、カズコさん」
  「はーい、行ってらっしゃい。ポチも行ってらっしゃい」
   ワンワン(やだやだ、ママのほうがいい)
   ガラガラ。
  「ふー、今日はいい天気じゃのー。今日はどっちまわりで行くかな」

   ワンワン(仕方ない、あきらめた)
  「そっか、そっか、嬉しいか、なーポチ。―――あ、こんにちは、武石さん」
  「あ、いらっしゃい、米田さん、いつも元気だねー。今日は散歩かい」
  「ええ」
  「あ、そうだ、この間頼まれた、ノラボウ、入荷したよ」
  「ほー、ノラボウですか、いいねー。お浸しには最高ですねー」
  「そうそう、で、今日買いますか、とっておいとくけど」
  「じゃあ後でまた来ますわ」
  「オーケー。待ってますよ」
  「お願いしますね。―――こんにちは、久下さん」
  「いらっしゃい、米田さん。あ、そうそう、昨日言っていたチューリップの
   球根入りましたよ」
  「ほー、チューリップですか、好きなのよねー」
  「どうしますか、とっておきますか」
  「じゃあ後でまた来ますわ」
  「分かりました、じゃまた後で」
  「お願いしますね。―――ふう、ただいま」
   ガラガラ。
  「あ、お帰りなさい、お母さん、早かったのね。ポチもお帰り」
  「ふう、今日はよく歩いたねー、ねーポチ」
   ワンワン(そんなでもないですけど)
  「そっかそっか、ポチも疲れたか。さ、カズコさん、お昼にしますか」
  「え?お母さん、だからさっき食べましたよ」
  「そうだったっけ」
  「ええ」
  「そっか。ポチ、お前も食べたか」
   ワンワン(さっき食べてる途中に散歩に行かされました)
  「そっかー、ポチも食べたんか。じゃあ、散歩でも行くとするか」
  「また行くんですか、お母さん」
  「うん、じゃあ行ってくるよ、ほれ、ポチ、散歩に行くよ」
   ワンワン(またですか!)
  「ほー、ポチ、そんなに嬉しいか、じゃあ行ってくるね、カズコさん」
  「はあ、お母さん、行ってらっしゃい」
   ガラガラ。
  「ふー、今日はいい天気じゃのー。今日はどっちまわりで行くかな。―――あ、
   武石さん、こんにちは」
  「いらっしゃい、米田さん。もう、持ってきたんですか」
   ワンワン(持ってきてないですよ)
  「何を?」
  「いや、ノラボウ買うんでしょ」
   ワンワン(いや、買わないと思います)
  「ノラボウ?いいねーお浸しには最高ですねー」
  「入荷しましたよ」

  「そう?じゃあ後でまた来ますわ」
   ワンワン(多分、また持って来ないと思います)
  「あ、そうですか、では、待ってますね」 
  「お願いしますね。―――こんにちは、久下さん」
  「いらっしゃい、あ、早いねー、米田さん。とってありますから」
  「なにを?」
  「あはは、いやだなーさっき言っていた球根ですよ」
「球根?ほー好きなんだよねー」
  「買いますか?」
   ワンワン(いや、買わないと思います)
  「じゃあ後でまた来ますわ」
  「わ、分かりました。じゃ、また、お待ちしてます」
   ワンワン(うーん、難しいと思います)
  「お願いしますね。―――ふう、ただいま」
   ガラガラ。
  「ん?カズコさん?―――ん?メモ?」
   ≪お母さん、お帰りなさい。用事で少しの間出かけてます。夕方には戻りますので。
    お腹すいたら、テーブルの上にパンがありますので食べてください。
    追伸 ポチもまだ食べ終わってないので、ご飯あげてください  和子 ≫
  「ほー、カズコさん、出かけたんだ。―――ん?ポチ、お前まだ食べてないのか」
   ワンワン(だから途中で散歩に行かされたんですよ)
  「そっかそっか、腹減ったか。食いしん坊だなーははは。―――ん?」
   ワン(え?も、もしや…)
  「ん?ん?」
   ワンワンワン(だめだめだめ、ま、また、散歩ですか…)

  「ん?」
   ワンワンワン(だめだめ、散歩いや!)
  「ノラボウだ!」
   ワン(え?)
  「そうそう、武石さんところに行かなきゃ。ん?チューリップもだ!」
   ワンワン!(お婆ちゃん!お、思いだしたんだね!お婆ちゃん!ああ、良かった)
  「久下さんもだ、ああ、お金持っていかなくちゃ」
   ワンワンワン!(そうだよ、そうそう。思い出してくれたんだねー、良かったー。
   一時はもうダメかと思ったよー。良かった良かった)
  「そうそうそう。じゃあ行ってくるか、なーポチ」
   ワン(え?)
  「支払いせんとな。行くよ、ポチ」
   ワンワンワン(ええ、ま、また行くの?ご、ご飯が…)
  「そうかそうか、お前も嬉しいか。じゃあ行くよ、ポチ」