介護小説 衣裏の宝珠たち(いりのほうじゅたち) 16

2010年8月31日(火) | 介護小説 衣裏の宝珠たち

*この物語はフィクションであり、物語に登場する人物・団体等
 は全て架空のものであります。

となりの芝が青く見える・・・
  近くを捨てて遠くに求める・・

作:なおとっち

第16話 シゲさんの入院ということ ①

   《 医療総合センター 》

  「あ、すみません、面会に来たのですが」
  「それでは、こちらに記入をお願いします」
  「はい、ええと」( 入院者名:留守シゲ、面会者:平 清志、病室:……… )
  「あのう、病室が分からないのですが…」
  「そうですか、ええと、あ、留守様のご面会ですか」
  「ええ」
  「そうですか、ええと、うーん…」
  「なんですか」
  「いやー、ちょっと難しいんじゃないですかねー」
  「え?も、もしかして、面会謝絶なんですか」(そんなに具合が悪いんだ)
  「あ、いえいえ、そうではないんですが」
  「はあ…」
  「あ、いや、余計なことをいいました。はい、7階になりますので、そちらのナース
   ステーションで、病室を聞いてください」
  「分かりました」(なんだろう?)
  「エレベーターは、あちらにありますから」
  「はい、どうも有難うございます」
  (ああ、ここだ)
   チーン。
  「あ、あ、待ってくだされ」
  「ん?」
   ヨロヨロヨロ。
  「あ、足が弱くて、あ、あ」
  「あ、大丈夫ですよ。待ってます」
   ヨロヨロヨロ。
  「す、すまないのう、ほっ…着いたわい」
  「何階ですか」
  「ご、5階で…」
  「分かりました」

   チーン。
  「い、いやあ、ここは広くて困るのう」
  「そうですね」
    チーン。
  「あ、着きましたよ」
  「は?」
  「5階です」
  「お宅は?」
  「僕は7階で降りますが」
  「そうか、では降りんと」
   ヨロヨロヨロ。ヨタッ。
  「あ、大丈夫ですか」
  「お、おう危ない。はあ、しんどい」
  「あ、じゃあ、病室まで行きますよ」
  「そうかい、ああ、助かる。すまんのう」
  「いえいえ、で、何号室ですか」
  「ええと…ん?ん?」
  「どうしました」
  「うーん、あれ?違ったかな…たしか、ここだったかと」
  「間違えました?5階ではないんですか」
  「うーん、うーん」
  「看護婦さんに聞いてみますね。あ、すみません、この方の病室はどこですか?」

  「はい?ええと、お名前は」
  「武田源治じゃが」
  「武田さんですね。ええと、こちらの病棟ではないですね。何階か分からないですか?
   そうですか、では調べますので少々お待ちください。―――
   お待たせしました。武田さん、7階になりますね。この2つ上の階になります」
  「分かりました、有難うございます。7階だそうです」(僕が行く所の階の人なんだ)
  「ほう、そうだったかい」
  「あ、待って、武田さん。何でも採血がまだなので1階に行って採血して下さい、て」
  「採血?ふーん、ああ、そういえば何かさっき、そんなことを言っておったな。そっか、
   ふー、しんどい。また1階に戻らんと」
  ヨロヨロヨロ。

  「ご家族の方ですか、ご家族の方もご一緒に、どうぞ」
  「え?いや、家族ではないんですが…」
   ヨロヨロヨロ。ヨタッ。
  「あ、危ない!あ、で、では、私も行きますよ。ついていきます」
  「ん?そうかい、すまんのう。見ず知らずの人に」
  「いえ、いいんです。では、1階に行きましょう」
  チーン。チーン。
  「ええと、あ、ここですね。【 採血室 】て書いてありますよ」

  ガチャ。
  「そっかそっか、いやー助かったよ。すまんのう。おお、看護婦さん、今来たぞ」
  「あ!武田さん!んもう、来るの遅いですよ。もう回診の時間ですから、
   病室に行っててくださいね。採血はまた明日にしましょう、ね」
  「え?血はとらんのか?」
  「そうですよ、先生の回診が始まってますから、このまま病室へ行っていてください。
   頼みましたよ。ご家族の方も、お願いしますね」
  ガチャ。
  「お!」
  「………」
  「ま、また戻らないと、行けなくなったわい…」
  「そ、そうですね…。では、戻りましょう、7階でしたね」
  「ふー、ああ、もう歩けんぞ…」
  ヨロヨロヨロ。
  「あ、大丈夫ですか、今、車椅子持ってきますから、ここで待っていてください」
  「ああ、もうダメじゃ…」
  ヨタヨタヨタ。ヨタヨタヨタ。
  バタッ!
  「あ!だ、大丈夫ですか!」
  ガチャ。
  「なに、今の大きな音は…あ!武田さん!あら、大変だわ!どうしましょう!
   と、とりあえず、こちらのベッドへ寝かせましょう」
  「わ、わかりました、手伝います」
  「しっかり!武田さん!分かる、聞こえる?返事して!一体どうしたんですか?」
  「い、いや、よろけてしまって。多分歩き疲れだと思うんですけど…」
  「ご家族の方、ちょっと、いてもらっていいですか。今先生を呼んできますから」
  「あ、いや、あのう、そのう…」