*この物語はフィクションであり、物語に登場する人物・団体等
は全て架空のものであります。
となりの芝が青く見える・・・
近くを捨てて遠くに求める・・
作:なおとっち
第24話 平さんの披露宴ということ
―― 続きまして、新婦のご友人を代表しまして、○○様より…… ――
「奥様、新婦の方、可愛らしい方ですねー」
「そうねークミちゃん。平さんもやる時はやる男なのよねー」
「ふふふ。いいなー、私も着てみたいなーウエディングドレス。ふー」
「あら、そう言えばクミちゃんの浮いた話、聞いたことがないわねー」
「あ、ひどいなー奥様。私だってあるんですよ。実はこのあいだ……」
「おおーい!ボーイさーん!酒がなくなってしまったぞー!」
「カラオケはまだですか!そろそろ歌いたいんですけど」
「こらーチョー!まーた≪天城越え≫だろーよ!よせよせ、もう聞きあきたわい!」
「違います!今回は新作です!」
「いいんだよ、お前の歌なんか。それより、ボーイさーん!久保田はまだかー!」
………。
「………」
「………。お、奥様、あ、あのテーブルの方たちは…」
「た、たしか、お母さんの行っているデイサービスの人たちじゃないかしら。ね、
お母さん?」
………。し、知りません…。
「え!大奥様のお知り合いの方たちなんですか!」
とんでもない!
「あの顔の真っ赤な方が、ええと…席の通りだとすれば…室井さんという方だわね、
そして、その隣で青い顔している方は…長、長宗我部さん?長い名前だわね…、
で、その横の渋めの方が…紅さん…という方だわね」
「≪なごみの森≫さんの利用者さんなんだー。へー、大奥様、面白い方たちが
いらっしゃってるんですね」
面白い方というより、変わっている方たちです。
「高村主任さん、中村さんも、ほら同じテーブルだわ」
「高村主任さんは、挙式の時にブーケを受け取ったんですって。いいなー」
「ふふふ。クミちゃんもいずれ幸せがきっと来るわよ」
―― 有難うございました。それではここでスペシャルゲストをご紹介致します。
新郎はさきほどご紹介しました通り、介護支援専門員として地域の介護を
要する方のために日々仕事をしております。実はその利用者様が本日
披露宴にいらっしゃっています。利用者様を代表しまして、室井源次郎様より、
祝福のお言葉を頂戴したいと思います。それでは室井様、どうぞ!」
ブッ!
「あ、大奥様、大丈夫ですか!」
ふ、吹き出してしまった…。よりによって…あの男にしたの?
「奥様、さっきのお酒くれー!て言ってた方ですよね?」
「そ、そうね…平さんもチャレンジャーだわ…」
私のかわりが…あの室井ジイとは…
『ええー。た、ただいまマイクのテスト中!ええー、実はじゃ、本当はワシではなく、
ほら、あそこにおる、留守シゲさんが、このー、今回結婚した、ええー、平さんの
担当の利用者なんじゃが、まー今回、ワシが抜擢されたからには、理由が
あるんじゃ。それは、戦時中に遡る!あれは、そう、満州に……』
………。
( 30分経過 )
『…であるからにして、ここからは、ワシが祝いの一曲を僭越ながら披露させて
戴きます。では、ミュージックスタート! ♪ さーらーばーラバウルよー、まーた
くるーまーでーはー ♪』
「お、奥様、あ、あの歌は?」
「うーん…なにかしらねー?」
ラバウル小唄です。
「奥様、昔の歌っぽいですね」
「そうね…」
古いです。いい曲ですが、ここで歌う歌ではないです。
―― あ、有難うございました。と、とても威勢のいい歌で新婚の門出には
ぴったりの歌でした。えー続きまして、新婦…… ――
「私も新曲があるんです。ぜ、是非歌わせてください!」
『こらー!チョー!お前まで歌う必要はないわい!』
「ず、ずるいですよ、私だって。≪天城越え≫ではないですから!それでは
ミュージックスタート!」
『こら、何を勝手に人のマイクを…』
『 ♪ 別れたーひとにーあーったー、別れたー渋谷でーあーったー 別れたー
ときとおんなじー、雨のーよーるーだーったー ♪ 』
「なんちゅう歌歌うんじゃ、チョー」
「お、奥様…」
「………」
や、やってしもうた…チョーさん…
『 ♪ やーっぱりー、わすれーらーれーなーいー、おわ!』
紅さんだ!
『詫びといってはなんですが、わしが、一曲歌わせていただきやす』
「お、奥様…こ、こんどは偉くこわもての人が出てきましたね…」
「クミちゃん、平さんの顔がひきつってきたわ…」
もう…知らんよ…。
( 最後まで歌いきる )
―― あ、あ、あははは…あ、ありがとうございました…さ、さて気をとりなおしま
して…おわ!――
『どうーもー!この度は平さん!おめでとうございます!あ、申し遅れました、私、
≪すこやか福祉用具≫でお馴染みの森 新太郎でございます!』
「あら、森くんですよ、奥様。」
「そうねー、手にもってるのは…」
いやーな予感…。
『ここで、本日ご両人の門出を祝い、スペシャルプレゼントをいたしたいと思います!
ジャジャーン!』
「つ、杖ですね」
「そ、そうね…あれでなにするのかしら?」
あ!平さんが倒れた!
『実はですねー、この杖はただの杖ではありません!な、なんと、この杖は!』
「お、奥様!平さんが!」
「だ、誰か、手をかしてあげて!新郎が倒れましたよ!」
「大丈夫かー、新郎!チョー!手をかせー!」
「キャー!!」
た、平さん…いつまでも…末永くお幸せに…