介護小説 衣裏の宝珠たち(いりのほうじゅたち) 21

2010年10月13日(水) | 介護小説 衣裏の宝珠たち

*この物語はフィクションであり、物語に登場する人物・団体等
は全て架空のものであります。

第21話 紅 仁義(くれない じんぎ)さんが登場ということ 

  「みなさーん、今週1週間は敬老会記念ということで、曜日ごとに盛りだくさんの
   企画がありますので、是非楽しんでいってくださいねー」
   パチパチパチ。
  「おうっしー!酒は出るんじゃろうなー」
  「あ、室井さん、いい質問ですねー。もちろんですよー、じゃんじゃん呑んで楽し
   んでいってください。あ、それからみなさーん、今日からですね、新しい方が、
   入りましたー。ご紹介致しますねー。紅 仁義(くれない じんぎ)さんでーす!」
   パチパチパチ。
  「では、紅さん、皆さんに一言お願いします」
  「おう、くれない!頑張れやー!」
  「ちょっと室井さん…静かに」


   パチパチパチ。
  「はい、紅さん有難うございました。皆さん、よろしくお願いしますね」
  「おう!仲良くしてやるぞー!くれない!こっち来て、さー呑め!」


  「おお。呑め、呑め。お?ところでお前、その指どーしたんだ?」
  「………」
  「………」

  「あ、あははは、もう、室井さんたら、いいじゃないですか、そんなことは、ね。
   さ、紅さん、の、呑みましょうね」
  「え?主任さん、聞いちゃまずかったか?くれない、別にいいんじゃろ?」

  「若気の至り?」
  「も、もう、室井さん…若気の至りは若気の至りなの、ね、あははは」
  「ふーん」
「あ、あははは。そうだったんですか、あははは」
  「そうか。わしはてっきり……」
  「さー室井さん!あっちに行きましょう!おもしろーいのがありますよー!
   中村さーん!室井さんをお連れしてー!さ、どうぞどうぞ!」
  「おわ!な、なんじゃ?」
   シュッシュッシュッ。
  「ふー。あ、すみませんね、紅さん。室井さんも悪気があって聞いた訳ではないので」
  「い、いえ、私は別に…」

  「あ、やっぱり……あ、いえいえ、ああ、そうでしたか…」

  「は、はあ…。あ、と、ところで、外に黒塗りの車がいっぱい止まってますけど、
   あれはやっぱり…」


  「は、はあ、やっぱりね…。そう…でしたか…。あははは…えぇと…あ、紅さんって
   ケアマネさんから戴いた情報ですと、要介護5になってましたけど、け、結構、
   お元気ですよね…」

  「は?」

  「そ、そうですね…ま、トップといいましょうか…」

  「そ、そうですね…ま、正確には市が認定しますけどね…」

  ---回想 はじまり---

  「おい、われー!親父の認定が幾つか言えんちゅーことか、おう!」

  「は…はい…あ、あのう、私が決める訳ではなくってですね…それは市が…」
  「それはさっき聞いたわい!」
  「は、はい!」
  「じゃあー聞くがな、われは一体何者なんじゃ、おう!」
  「は、はい!ですから、私は市から委託をされた調査員でして…」
  「おう!親父にさんざん、立てだ、座れだ、歩けだ、腕をあげろだの、おう!
   さんざんやらせておいて、それで今の答えでええんかいのー、おう!」

  「は、はい!」
  「それにだ、われー親父に質問しておいて、のう、日付がどうじゃ、ここは
   何処じゃ、とあれこれ聞いておって、おう、われは答えられん、て筋が通る
   んかいのー、おう!」

  「はい!」
  「親父は、その認定なんだらが幾つになるか、聞いておるんじゃ、答えてつかー
   さいな、のう」

  「は、はい…。わ、分かりました…で、では、これはあくまでも私の独り言です
   ので、それでよろしいでしょうか。私は紅さんには言ってませんので、あくまで
   も、私の独り言ですから」
  「分かったわい、はよう言いや」
  「は、はい…お、おそらく、このチェックですと、よ、要支援、くらいかなーと」
  「なにー、要支援だー?おう、その要支援ていうのは、トップかいのう」
  「ト、トップと言いますと…」
  「一番か、と聞いてるんじゃ!」
  「あ、い、いえ、あのう、何処をトップとみるかによってなんですが、まーそうです
   ね、認定では、い、一番軽いほうかと…」
  「なんだー!」
  「はい!」
  「われー!親父が一番軽いっちゅうことか!おう!何処が
どう軽い人間なんじゃ!おう!」

  「い、いえ決して人間性とかではなくってですね…」
  「やり直せ!」
  「は?」
  「トップになるよう、やり直さんかい!」
  「は、はあ…い、いえ、あのう…それは…」
  「親父はトップがええんじゃ!やり直さんかい!」
  「は、はい!」
  ---回想 おわり---

  「…………」

  「…………そ、そ、そうですね…は、はは…」


  「は、はい!こ、こちらこそ!よ、よろしくです…」

  「あ、あははは…わ、私は大丈夫です…はい…お気遣いありがとうございます…
   あははは…た、楽しくやりましょうね…紅さん…あはははは」