*この物語はフィクションであり、物語に登場する人物・団体等
 は全て架空のものであります。

第23話 日帰り旅行ということ ②

  ―― 品川プリンスホテル アクアミュージアム ――

  「はーい、皆様、到着しましたよー」
  「おうっしー、着いたかー、水族館に」
  「はーい、室井さん。ええと、車椅子の方は後ろからリフトで降りていただきます。
   中村さん、誘導をお願いしますね」
  「はーい主任。では、レデイファーストで、留守さんからどうぞ」
   はい、お願いします。
  「続いて、室井さーん」
  「おう!頼むぞー」
  「はい、では次の方、どうぞ」
  「歩行の方は、こちらから降りてください。長宗我部さん、どうぞ」
  「すみません、それでは」
  「米田さん、どうぞ」
  「はい、どうも」
  「紅さん、どうぞ」
  「失礼して」
  「はい、では、皆様、降りましたね。では、こちらへお集まりくださーい。はい、
   それでは、ここから先は水族館になってます。自由行動ですが、他のお客さんも
   いますので、職員は注意してまわってくださいね。11時半にまたここへ戻って
   ください。そしたらご昼食の場所に移動します。食べ終わりましたら、またここ
  に戻ります。イルカのショーが始まりますから。いいですか、みなさーん」

  「はーい」
  「それでは、中へ入りましょう!」
   シュッシュッシュッ。
  「おお、どけどけ」
  「室井さん、気をつけて行ってくださいね、中村さん、留守さんと室井さんをお願い
   しますね」
  「はい。留守さん、行きましょうか」
 
  はい。キーコキーコキーコ。
  「君恋し…」
  「え?」
  「米田さんに、一つ歌を詠もうと思いまして」
  「はあ…」
  「君恋し、エイの尾ひれが…」

  「あ、紅さん、あれはサメですね、すごいですねー」
  「ええ、米田さん」
  「君を刺し、私の想いも…」
  「うわー、大きなエビだこと」

  「伊勢エビと違いますか」
  「はかりしれないほど…」

  「あ、あそこにペンギンがいますわね、紅さん、宜しかったら、一緒に見に
  行きませんか」
  「ワシでよろしければ」
  「………」
  「ええ、是非」
  「では、米田さん、先にどうぞ」
  「あら、有難う、紅さん」
  「………」
  「長宗我部さん、どうしました、楽しんでますか?」
  「あ、主任さん、はあ、まあ…」
  「歌ができましたか、長宗我部さんのことだから、また歌を詠んだのでしょ?」
  「ええ、米田さんのために作ったのですがね…」
  「へー、素敵ですわね。さぞ、米田さんも喜んだでしょ」
  「いえ…私にかまわず、紅さんと行ってしまいました…ペンギン見に」
  「あら…」
  「女心は分からんですな…」
  「はあ…ちなみにどんな歌を詠んだんですか?」
  「君恋し エイの尾ひれが君を刺し 私の想いも はかりしれないほど 」
  「………」
  「ダ、ダメだったのでしょうか」
  「い…いえ、と、とても素敵な歌ですわ…はは。あ、留守さん、どうですか、
  楽しんでますか」
   ええ、かわいい魚がいっぱいですね。

  「そうでしょ、結構いるんですよ、水中トンネル通りました?」
   はい、あそこはいいですね。面白かったです。
  「中村さん、室井さんは」
  「室井さんは、勝手に行ってしまって、でも、あの大きな声ですから、すぐに何処に
   いるか分かりますから。あははは」
   確かに。
  「中村さん、ちょっと変わってもらっていい?私見てくるから」
  「はい、分かりました。じゃあ、長宗我部さん、留守さんと一緒にまわりましょう」
  「ええ…」
  「元気ないですね、長宗我部さん」
   何かありましたね。
  「実はそのう…米田さんが…紅さんと…」
  「え?」
   紅さんのほうに行ってしまった、ということね。
  「私の歌がいけなかったのでしょうか…」
  「はあ…」
   ていうか、バスの降車の時がいけなかったわね。
  「え?」
  「なに?留守さん?」
   さきに降りたでしょ。あれはまず、米田さんを先に譲って、それから
   あなただったんじゃないの。
  「や、やっぱり、あの歌ですか。そっかー、やっぱりね」
   いや、違いますよ。
  「どんな歌だったんです、長宗我部さん?」
  「ええ。君恋し エイの尾ひれが君を刺し 私の想いも はかりしれないほど 」
  「………」
   ………。
  「この歌でしょうか?」
  「そ、そうですね…はは…留守さん、ど、どう思います?」
   た、たしかに…その歌も…一つの原因かもしれません…
  「る、留守さん」
   え?
  「留守さんのために、一つ歌を作りました」
   舌の根が乾かぬうちに、この男は…。行きましょう、中村さん。
  「君恋し エビの触覚 我に触れ ……」
 さて、私もペンギン見よっと。キーコキーコキーコ。

お見事!

2010年11月8日(月) | こちら在宅福祉部です!

在宅生活を送っている 利用者様の作ったちぎり絵です。
皆様の作品をまとめて展覧会でも開きたいものです!

Writer:中井 紫鶴

段々と寒くなってきましたね。街のイルミネーションが増えてきました。
イルミネーションを見ると、もう冬なんだなぁ~と感じます(^‐^)

Writer:多々井 優里

 

シルバービレッジ西東京の秋の展覧会が始まりました。
ご入居者の皆様と創作レクの時間に作りました。
今年は、「花」をテーマに作りました。
何で作ってあるお花か、わかりますか?
果物を包んである、緩衝材です。
14日まで行っています、皆様ぜひ足をお運び下さいませ!

Writer:渡邊 知子

*この物語はフィクションであり、物語に登場する人物・団体等
 は全て架空のものであります。

第22話 日帰り旅行ということ ①

  「♪わたーしーは、東京のー、バスーガールー、はっしゃーおーらいー♪」
  「よっ!ええぞ、バスガイドさん!」
  「♪あかるくー、あかるくー、はーしるーのうよー♪」
   パチパチパチ。
  「はい、バスガイドさん、有難うございました。さーて、次はなにが入ってますかね
   ―。あ、でました。≪ 天城越え ≫ですねー、これはー誰ですかー」
  「うわ!こりゃ決まっとるわい、俳句バカじゃ、な、チョー」
  「短歌です…」
  「な、なにをー!チョー!」
  「そんな後ろの席では、私にヘッドロックできませんよ」
  「お、いうたな、チョー!」
  「まあまあ、室井さん、今日は旅行なんですから
  ね、楽しくね。さー長宗我部さんが歌います。
  ≪ 天城越え ≫です、どうぞ!」
  「♪隠しきれないー、移り香がー♪」
  「もう聞きあきたよ、こいつの石川さゆりは。ところで、主任さん、便所はまだか?」
  「あ、トイレ休憩ですか、そうですね、もうすぐです。今、高井戸を過ぎましたので、
   代々木パーキングには、もうすぐですから」

  「そうか。で、ほんとにそんな都会の中に水族館なんてあるんか?」
  「あるんですよ、これから皆様が行くところは、品川プリンスホテルなんですけど、
   ああ、そうです、そのしおりに書いてありますけどね、
  その品川プリンスホテルの中に『 アクアミュージアム 』という水族館があるんです。

  いいですよー、魚もいっぱいいますし、イルカのショーもありますから」
  「私は一回行ったことがありますよ、和子さんが連れてってくれたから」
  「あ、米田さん、そうですか、お嫁さんがですか、へー」
  「動物は大好きだからねー」
  「そういえば、ワンちゃん飼ってましたよね、えーと名前は…」
「ポチです」
  「あ、そうそう、そうでした。あ、そろそろ、代々木パーキングにつきますね。
   みなさーん、もうすぐパーキングに着きますので、ここでトイレ休憩をしま-す」
  「♪やまーがー、もーえーるー♪」
  「おい、チョー、もう休憩じゃ、歌をやめい」
  「バスが止まるまで、立たないでくださいね、順番にお声をかけますので、それまで
   は座っていてください。中村さーん、車いすの方は後ろのリフトでお願いね」

  「はーい、主任。あ、留守さん、おトイレ行きますか」
   行っておこうかな。
  「じゃ、先にリフトで降りましょう」
   はい。
  「あ、紅さん…だ、大丈夫ですよ…ここはプロに任せてください…」

  「は、はい…」
   どうりで後ろに黒塗りの車が何台もついてくるわけね。
 
 「♪あなーたーとー、こえーたーいー、あまーぎー」
   プチ。
  「はい、着きましたよー、皆様。ここで、15分間休憩とりますねー」
  「………」
  「長宗我部さんも、おトイレ行きますか?」
  「は、はあ、行っておきます…」
   ――― トイレ休憩中 ―――
  「はーい、皆様、よろしいですかー」
  「はーい」
  「お隣りの方はいらっしゃいますかー」
  「はーい」
  「中村さんや、窓側に座っていた、あの人がおらんがいいんかいのー」
  「え?紅さん、どうしました?」
  「右側通路にいた、ほら、ポチがどうのこうの、と言っていた人じゃけん。
   あの人がおらんけん」
  「ポ、ポチ…、あ、米田さん…あ!主任!米田さんがまだです」
  「よろしいですかー、それではしゅっぱーつ!」
  「しゅにーん!米田さんがまだでーす!」
  「え?あ、運転手さん、ちょっとストップ。え?米田さん…あ、ほんとだ。」

  「おい、あのチョーもおらんぞ」
  「あら、ほんとね。ええと、中村さん、見に行ってきてくれる?」
  「はい、行ってきます」
  「あ!ちょっと待って、あれ、米田さんだ、ああ良かったわ、こっちに
  来るわね、ええと、もしかしたら隣りにいるのが、ああ、長宗我部さんだわ
  ああ、二人とも戻ってくるわ、大丈夫、中村さん」
  「チョーめ、この期に及んでしけこみやがったな、あいつ。留守さん、ありゃー
   ダメじゃよ、あの女癖はなおらん」
   は?
  「あいつはやめといたほうがいいぞ」
   ていうか、最初から何も思ってませんけど…。
  「でも、ああいう奴に、なーぜか女は弱いんじゃな、女の七不思議じゃ」
   だから、なーんも思ってません、て。
  「お帰りなさい、さーこれで皆様いらっしゃいますね、それでは、もう休憩なしで
   品川プリンスホテルに迎いますね。それでは運転手さん、お願いしまーす。
   それでは、しゅっぱーつ!」
 
 「おうっーし!次は誰が歌うんじゃ、おう!」
  「はい、ええと次は…」
  「わ、私は、と、途中だったの…ですが…」
  「え?長宗我部さん、どうしました?」
  「い、いえ…」
  「あ、次はこれですね、ええと≪ 崖の上のポニョ ≫ですか、さー誰ですかー」
  「おお、ポニョかー誰じゃ、ポニョは、またチョーじゃないだろうな、おう?」
  「わ、私ではないです…ていうか、私はと、途中で終わって…」


  「え?」
  「あ、そ、そうですか。主任、紅さんでーす、マイクをこっちに渡してくださーい」
  「は、はーい。さー、それでは、紅さんが歌います、≪ 崖の上のポニョ ≫です。
   では、紅さん、どうぞ!」


  「………」

  「………」